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Artist

CONJUNTO DE SENEN SUAREZ / NINO RIVERA Y SU COMBAN

Title

GRANDES ORQUESTAS CUBANAS 2



Japanese Title 国内未発売
Date 1960/1959
Label SONORA CUBANA/VIRGIN 850818-2(EP)
CD Release 2000
Rating ★★★★★
Availability ◆◆◆


Review

 ソン黎明期の伝説のグループ、セステート(セプテート)・アバネーロの1920年代なかばから30年代はじめの音源を集大成した4枚組CD "LAS RAICES DEL SON" (TUMBAO TCD-300(EP),1998) の副題に'por Senen Suarez'の文字を発見したとき、これがあのセネン・スアーレスと同一人物だとはすぐには気づかなかった。『ソンの源流〜監修セネン・スアーレス』ぐらいの意味だろうが、添付のブックレットは全編スペイン語なので、かれが具体的にどのようにかかわっているかはよくわからないのだけれども、ラ・ソノーラ・マタンセーラやコンフント・カシーノなどに連なるグァラーチャ系の歌謡路線をやってたひとぐらいの認識しかなかったので、この結びつきは意外であった。

 スアーレスの音楽を“まともに”聴いてみようと思ったのは、じつは上の発見から2年後にスペイン・ヴァージン系列のレーベル、ソノーラ・クバーナから発売された本盤を手に入れてからである。トレス(複弦3対の小型ギター)の名手にして、有能な作・編曲家であったニーニョ・リベーラのグループと抱き合わせで収録されたスアーレスのコンフントによる60年の演奏10曲は、わたしのスアーレス感を根底からくつがえすものであった。

 それ以前にスアーレスの単独盤としては、SENEN SUAREZ Y SU CONJUNTO DEL TROPICANA NIGHT-CLUB "GUAGUANCO CALLEJERO"(TUMBAO TCD-048(CH),1994) を持っていた。1952〜53年の演奏全16曲からなるこのアルバムは、後年セリア・クルースとともに、ラ・ソノーラ・マタンセーラの全盛期を支えた“ライート”こと、エスタニスラオ・スレーダ・エルナンデスをヴォーカリストに迎えた、いかにも50年代らしいスピーディでポップな展開。

 46年に、コンフント・カシーノに対抗するためにネロ・ソーサらと“コンフント・コロニアル”を結成したスアーレスは、ニコ・サキートの“グァラチェーロス・デ・オリエンテ”に参加したのち、エルネスト・グレネのグループのメンバーとして有名なナイト・クラブ、トロピカーナに出演。50年、リーダーのグレネがグループを脱退するに及んで、グループを引き継ぐかたちで結成されたのがこのコンフントである。基本的には、コンフント・コロニアル、コンフント・クババーナ、コンフント・カシーノ、それにラ・ソノーラ・マタンセーラと共通するアップ・テンポなグァラーチャを中心にすえたラテン歌謡路線である。デビュー曲にあたるセプテート・ナシオナールのイグナシオ・ピニェイロの作品'GUAGUANCO CALLEJERO' が典型的なように、都会的でスマートななかにも、ライートの意外と土臭いヴォーカルが功を奏して、ひとくせある好盤に仕上がっている。クババーナ、カシーノ、ラ・ソノーラのこざっぱりした演奏よりは、こちらのほうがよっぽど好きだが、愛聴盤に加えるにはやや紋切り型の印象は拭いきれなかった。

 そこをいくと、本盤はスアーレスの音楽的土壌の広さを十分に物語るものである。いきなりめずらしいチューバが入ったパーカッシブなコンガ(曲のスタイル名)で、セプテート・ナシオナールに参加していたラファエル・オルティスと、キューバを代表する作曲家エルネスト・レクォーナと、40年代を代表するオルケスタのリーダーで作・編曲家であったマリアーノ・メルセローンの作品をメドレーに仕立ててしまう手並みにはおそれいった。つづく自作のグァラーチャ'TUMBAO ACARAMELAO' は、チャチャチャのコーラスを巧みに組み込んで、メロディ・メイカーとしてのスアーレスの能力の高さをしめすもの。理屈抜きに楽しく思わず口許がゆるんでしまう。

 大作曲家エリセオ・グレネ、それにナシオナールやラ・ソノーラを渡り歩いたビエンニード・グティエーレスなどの作品をメドレーでつづった1曲目に展開がよく似た展開のグァラーチャ・コンガをはさんで、なんとその泥臭い作風からキューバ本国では忘れ去られていた異端派、シルベストレ・メンデスの作品がとりあげられる。このあたりにスアーレスの選曲センスのよさがキラリとかいまみえる。
 これにつづくはヴォーカルとパーカッションのインター・プレイからなるキューバ本来の土俗的なルンバをベースにした曲。かと思うと、いかにも50年代のキューバを象徴するようなポップなグァラーチャやチャチャチャが平然と演じられている。これらいずれもアレンジがすばらしく完成度が高い。

 アルバム後半には、セリア・クルースをほうふつさせるパウリーナ・アルバーレス(じつはセリアの大先輩。彼女が率いたオルケスタ・パウリーナ・アルバーレスによる37年の演奏は"HOT MUSIC FROM CUBA"(HARLEQUIN HQ CD23(UK))で聴くことができる。)がすばらしいヴォーカルを披露する泣きのグァラーチャ'AMOR Y MAS AMOR'、自作のしっとりしたボレーロ'ERES SENSACIONAL'(キューバ音楽はやっぱりこれがなくっちゃ)へという展開には参った。
 そして、アルバムのラストをプエルト・リコが生んだ偉大な作曲家ペドロ・フローレスのボレーロでしめるあたりが心憎いではないか。キューバにくらべてまろやかなプエルト・リコならではのボレーロのフレイヴァーがつよく感じられる。
 わずか33分あまりの演奏時間だが、キューバ音楽のエッセンスがぎっしりと凝縮されたまさに傑作である。もう一方のニーニョ・リベーラの演奏もスアーレスに負けず劣らずすばらしい。

 じつはスペインのHELIXから出ているSENEN SUAREZ Y SU CONJUNTO"RITMO EN LA HABANA"(CDNS 745(ES),2000)は、同内容で本盤より4曲多い14曲入りだ。しかし、リマスターの音質も曲の配列もヴァージン盤のほうが上。ヴァージン盤があれば無理して買う必要もなかろう。
 また、最近、1950年から88年までのスアーレスの演奏21曲を集めたベスト盤"REGRESO FELIZ"(EGREM CD-0371(Cuba), 1999) を手に入れた。そこではみずからエレキ・ギターにチャレンジしたインスト・ナンバー9曲も収録されている。老いてもその創作意欲にまったく衰えを感じさせないのはたいしたものである。ミョーにブッ飛んでいてマーク・リボーにぜひ聴かせてみたい。
 それにしても、こんなに豊かな才能に恵まれていながら、いまいちメジャーになれなかったのは、そんなかれの「器用貧乏さ」のなせるワザからではないかとつくづく思ったりする。


(6.18.02)



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by Tatsushi Tsukahara